
●この記事のポイント
・インバウンド1億人時代、全国で宿泊税の見直しが加速。高市政権は国としての統一指針や法制度の整備を検討し始めた。
・宿泊税の対象外となっている民泊への課税をめぐり、ホテル業界との不公平論が噴出。観光財源と多様性の両立が課題に。
・税強化で宿泊料金上昇や民泊撤退の懸念も。観光立国として「税か信頼か」が問われ、SNS上でも賛否が割れている。
訪日外国人が過去最多を更新し、インバウンド消費が沸騰する日本。だが、観光の恩恵を受ける一方で、各地の自治体では「宿泊税のあり方」をめぐる再検討が加速している。オーバーツーリズム、財源不足、民泊課税――観光立国の次の課題が、いま静かに浮かび上がっている。
●目次
高市政権で浮上した「宿泊税」再設計論
2025年、高市政権が観光政策の中核テーマとして掲げたのが「宿泊税制度の全国指針化」である。コロナ禍を経て観光客が急増し、2025年の訪日外国人延べ宿泊者数は1億人を突破。インバウンド消費も年9兆円超と過去最高を更新した。
こうしたなか、全国の自治体で「宿泊税の見直し」が急浮上している。観光客が増えれば公共交通・清掃・観光案内などのコストも増す。だが、観光関連予算の多くは地方税では賄いきれず、「国による一定のガイドラインや法的枠組みが必要だ」という声が上がり始めた。
京都市ではすでに1泊1万円につき200円の定額制を導入。東京や大阪などの大都市圏も追随し、東京都は宿泊料金に応じて税率が変動する「定率制」の導入を検討している。
高市政権が打ち出す「観光財源の再構築」は、単なる地方税議論ではなく――観光立国の設計思想そのものを問うテーマになりつつある。
観光庁の試算によると、2024年度に自治体が負担した観光関連経費は全国で約1兆円。
一方、宿泊税による歳入は全国合計でわずか約450億円にとどまる。つまり、「観光客1人あたりの税負担」は極めて小さいのが現状だ。
特に東京都では、空港アクセスの整備、通訳案内、災害時対応、公共トイレの維持管理など、訪日客対応のコストが年々増加。「受け入れのための基盤整備に税金を投じ続ける一方、宿泊者からの負担はほとんどない」という不公平感が強まっている。
観光立国の名のもとに「誰が負担するのか」「何を観光の利益とするのか」という根本的な問いが、地方の財政現場で噴き出し始めている。
民泊だけ“非課税”の不公平、ホテル業界の反発
議論の火種は、「民泊」だ。民泊新法(住宅宿泊事業法)の成立以降、Airbnbなどを通じて全国で数万件規模の民泊施設が営業している。特に訪日外国人の間では「日本の普通の家に泊まれる」体験型宿泊として人気が高い。
だが、多くの自治体で宿泊税の対象がホテル・旅館業に限定されており、民泊事業者は課税対象外。「同じ観光客を泊めているのに、ホテルだけが税を払っているのは不公平だ」という不満が、業界団体から強く出ている。ホテル・旅館業界関係者は語る。
「民泊の台頭で宿泊単価が下がり、清掃・騒音・ごみ問題も増えた。なのに税金負担はゼロ。税の公平性を保つためにも、民泊を含めた制度設計が必要だ」
一方、民泊事業者からは真逆の声が上がる。
「民泊は地域の空き家を活用して地方経済を潤している。過度な課税は小規模事業者の撤退を招き、結果的に観光の多様性を失う」
“民泊課税”は単なる税制議論ではなく、観光の社会的構造をどう定義するかという問題にまで発展している。
税の強化が「観光地の魅力」を損なうリスク
宿泊税の増税・拡大に踏み切る自治体が増えれば、短期的には財源確保につながる。
だが、その裏には観光経済への副作用もある。
まず懸念されるのが、宿泊料金の上昇だ。
インバウンドの増加によりホテルは慢性的な客室不足。宿泊税分を上乗せすれば、1泊数千円の値上がりも現実的だ。
その結果、
・外国人観光客がより安価な他国(韓国、タイなど)へ流れる
・日本人観光客が国内旅行を控える
といった波及効果が予想される。
特に、ホテル客室が満室でも民泊が支えてきた地方都市では、民泊事業者の撤退が宿泊供給の減少に直結する。観光庁関係者も、こう漏らす。
「課税強化だけを先行させれば、宿泊インフラの柔軟性を失う。観光地が自らの首を絞めかねない」
“観光税のジレンマ”は、財政・公平性・地域経済という三つの軸のバランスをどう取るかにある。
「税か、信頼か」問われる観光立国の倫理
議論が進む中で、SNS上でも意見は割れている。「観光客が増えて街が汚れた」「インフラを維持するには税は当然」という賛成論の一方、「日本の魅力は“おもてなし”にあるのに、税を取る姿勢は逆行」「観光客に冷たい国と思われる」との懸念も多い。
識者の中には、「税ではなく透明な“使い道の可視化”が先だ」と主張する声もある。
宿泊税がどのように観光地の清掃や安全対策に使われているのか、明確に示されていない自治体が多いからだ。観光政策アナリスト・湯浅郁夫氏はこう指摘する。
「宿泊税を払う観光客の納得感をどう生むか。『課税』よりも『共創』の発想が問われている」
“税を取るか、信頼を築くか”。観光立国・日本が次に選ぶべき道は、単なる税制ではなく、観光を社会の共通資産として再設計することにあるのかもしれない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)








