
●この記事のポイント
・訪日外国人の91%が滞在中に百貨店を訪れているという調査データ
・高島屋はタイ、マレーシア、米国からの訪日客が好調
・百貨店ならではの安心感・信頼感のある商材として、こども服、スポーツ用品が大きく伸長
今年1~6月の訪日外国人数(推計値)が2151万8100人(日本政府観光局発表)となり、過去最も速いペースで年間2000万人を超えるなど、引き続きインバウンドの増加傾向が続いている。4~6月期の訪日外国人旅行消費額(速報値)も前年同期比18.0%増の2兆5250億円(観光庁発表)と消費も旺盛だが、訪日外国人向けショッピングサポートアプリを提供する株式会社Paykeの調査によれば、訪日外国人の91%が滞在中に百貨店を訪れているという。一昔前にみられた爆買いがすっかり鳴りを潜めたといわれるなか、なぜいまもって百貨店は外国人観光客から人気なのか。また、百貨店はインバウンド取り込みのために、どのような取り組みを行っているのか。百貨店への取材を交えて追ってみたい。
●目次
国籍別では中国が半数以上のシェア
ここ数年のインバウンド客の来店数・売上などの推移について、大手百貨店の高島屋は次のようにいう。
「2023年は売上高687億円・件数58万3000件、24年は売上高1,160億円・件数94万2000件でした。直近25年1Q(3~5月)では、24年度の円安を背景に急拡大したインバウンド需要の反動が大きく、実績は229億円で、24年度1Q比較ではマイナス100億円・マイナス30.5%、23年度同比較では+120億円、+110.3%でした。件数は訪日外国人客数が各月過去最高を更新するなか、買上件数は微増となっています。消費行動の変化が売上減少に影響しています」
どの国・地域からのインバウンド客が多いのか。
「国籍別では中国が半数以上のシェアを占め一番多く、次いで香港、台湾、シンガポール、韓国などのアジア圏の訪日外国人客が多いですが、直近では、韓国、香港、台湾などの近隣国が軒並み減少しています。一方、タイ、マレーシア、米国からの訪日客が好調です」(同)
いわゆる「爆買い」的行為は沈静化したといわれているが、インバウンド客からは、どのような商品・売り場が人気なのか。また、どのような商品の売上が大きいのか。
「ラグジュアリーブランド、化粧品の売上が中心です。ただ、直近ではラグジュアリーブランドの値上げや為替影響などにより、高額品購入の経済メリットが徐々に薄まってきています。
一方、百貨店ならではの安心感・信頼感のある商材として、こども服、スポーツ用品が大きく伸長しています。化粧品については、日本国内のお客様同様、コンサルティングを通じて自分の好みに合った商品を選別して購入する傾向があります」(同)
インバウンド客の集客や売上増のために、どのような取り組みや施策を行っているのか。
「前述のとおり、日本ならではの素材や製法の安心感・信頼感のある商材にニーズが拡大している背景から、日本の人気ブランドや技術や伝統を活かした商品の品揃えを強化しております。また、海外向けインフルエンサーの起用や各種海外向けSNSを活用した情報発信を行っております。
さらに、為替や景気に左右されない消費意欲の高い訪日客のリピーター化に向けて、当社グループ海外店舗の上位顧客の送客に力をいれております。まずは昨年12月よりシンガポール高島屋S.C.の上位顧客を中心にVIPカードを発行(実際にはご案内状をお送りし、来店の際にVIPカードをお渡し)し、日本橋店、大阪店、京都店で、ご要望に応じてお買い物のアテンド、免税優先手続きなどのサービス施策を実施しており、今後さらに海外・国内ともに対象店舗を拡大していく予定です」(同)
デパ地下は外国人観光客の間では人気スポット
では、訪日客の9割は百貨店を訪れるという調査データもあるほど、インバウンドにおいて百貨店が根強い人気を誇っている理由は何であると考えられるのか。
「高品質で安心安全な日本製品や正規品が購入できるという信頼感と、丁寧で親切な接客やサービスを受けることができるという点であると考えております」(同)
大手小売りチェーン関係者はいう。
「東京でいいますと、多くの訪日外国人が集まる銀座、新宿には百貨店があるので、とりあえず観光の一環として入ってみるという流れがあるでしょう。円安の影響で高級ブランド品が海外より安く買えるので、そうしたテナントが多数入居する百貨店で比較的富裕層の観光客がまとめ買いするという傾向は一定程度みられます。また、日本の化粧品は人気なので、店舗で相談員役の店員とコミュニケーションを取りながら買っていくという楽しみ方をする観光客もいます。このほか、デパ地下は一種のエンターテインメントとして外国人観光客の間では人気スポットとなっており、多くのレストランも入っているため食事にも便利だという点もあります。
とはいえ、一昔前にみられた爆買いは鳴りを潜めたといえる状況ですので、百貨店側は“外国人観光客が来てくれれば売れる”という状況ではないため、魅力ある特集的な売り場の設置や上質なコンシェルジュ的な接客サービスなど、あの手この手で工夫を行う必要があります」(同)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)